この記事で学べること
インプラントもブリッジも、抜歯で歯を失ってしまった後に、よく噛めるように機能を回復する、歯が抜けたことで見栄えが悪くならないようにする、隣の歯や噛み合う歯が移動しないようにする、等の目的で行われる治療法です。
実際にこういった治療が必要になった時に、どちらの治療法を選ぶべきか?悩まれる方は多いと思います。今回はこの両者の利点、欠点を科学的根拠となる論文を元に比較してみたいと思います。
ブリッジのリスク① 〜健康な歯を削るリスクはどの程度?〜
ブリッジではなくインプラントを選択する患者様に理由を尋ねると、健康な歯を削ることが嫌だという答えが返ってくることが多い気がします。では、健康な歯を削ることは、どれだけリスクがあるのでしょうか?
Valderhaug1)という歯科医師が1997年に大学病院において行った研究では、金歯(TypeⅢ gold alloy 精度と強度を兼ね備えた金合金)のクラウンやブリッジを装着した歯は、5年で98%、10年で92%が健康な状態を保っていたと報告しております。これはかなり高い数値ではないかと思われます。金合金は非常に精密な歯を作ることができるため、歯と金属の間の隙間も小さくなる傾向があります。こういった精密さが、良好な結果を生んだ可能性もありえます。見た目の問題など金歯にネガティブなイメージを持っていなければ、歯を削るブリッジもそれほどリスクが大きいとは言えないかもしれません。なお、保険の銀歯によるブリッジについては明確なデータが入手できていません。自費の金歯と保険の銀歯の精密さの違いによって予後に差があるのかないのかは、少なくとも現時点で断言するのは避けておきます。
ブリッジのリスク② 〜ブリッジを支える歯にかかる負担が増えると歯の寿命が低くなる?〜
歯科医師の観点では、ブリッジにおいては3本分の歯にかかる力が2本の歯に集中することをリスクとして考えます。単純計算で1.5倍の力と想定できますが、これがどの程度のリスクになるのでしょうか?
まず、単純にインプラントとブリッジの10年残存率、すなわち10年後に問題なく使えている割合を比較してみたいと思います。Pjetursson2)という歯科医師が2007年に複数の論文を収集し、まとめ上げたデータ(Systematic Review 信頼性の高い複数の論文から抽出したデータを統計処理した論文)によると、ブリッジの89.2%、インプラントの89.4%が10年後も使えていたとされております。単純に長持ちだけを考えると、精密に作られたブリッジはインプラントと同等の残存率を示すこともあるようです。
では、ブリッジが使えなくなる理由を調査してみます。Aquilino3)という歯科医師が2001年に、約10万人の患者さんから抽出したデータによると、ブリッジの支えとなった歯の10年残存率は92%、すなわち8%の歯が抜けてしまっていたそうです。この2つのデータから推測すると、ブリッジが使えなくなる理由の一つに、両隣で支える歯がだめになって抜けてしまうということが挙げられそうです。
インプラントのメリットは隣の歯に負担がかからないこと
では、インプラントの両隣の歯の残存率はどうなのでしょうか? Krennmair4)という歯科医師が2003年に78本のインプラントおよびその隣の148本の天然歯の経過を平均約6年(58ヶ月)追跡調査したところ、隣の天然歯は148本すべてが残存し、4本がむし歯などで治療を行ったに過ぎず、動揺すなわち歯の揺れなども生じなかったと報告しております。これらの論文を参考にする限りでは、インプラント処置を選択するということは両隣の天然歯を過剰な力から守り、大切にすることにつながりそうです。
インプラントの最大の欠点
インプラントとブリッジの予後を中心とした比較は以上の通りですが、インプラント治療にはブリッジにない欠点があります。インプラント治療における最大の欠点でもある、外科処置が必要という点です。
これにつきましては次回、「向いている症例、向いていない症例」の中で、さらに詳しく取り上げていきたいと思います。
抜いたまま放置は一番よくない?
余談になりますが、先のAquilino3)先生の調査では、ブリッジすら行わず放置した場合は両隣の歯の残存率は92%から81%まで低下したと報告されておりました。歯が抜けた場合、そのまま放置するというのは、最も悪い選択肢であるというのは間違いなさそうです。
参考文献
1) Valderhaug J, Jokstad A, Ambjornsen E et al. J Dent 25: 97-105, 1997
2) Pjetursson BE. et al. Clin Oral Implants Res. 2007;18 Suppl 3:97-113.
3) Aquilino SA, Shugars DA, Bader JD et al. J Prosthet Dent 85: 455-460, 2001.
4) Krennmair G, Piehslinger E, Wagner H. Int J Prosthodont 16: 524-528, 2003.