この記事で学べること
“入れ歯が痛い、合わないのはなぜ??”
近年、高齢化が進み、入れ歯の治療を必要とする難症例の患者さんが年々増加してきています。高齢になると入れ歯を支える土手(顎堤)は少なくなるため入れ歯の作製は容易ではなくなります。
しかし入れ歯を作る上で、作製を困難にさせる要因は土手 (顎堤)の問題だけではありません。
よく入れ歯が合わない、痛いということを聞きますが、それはなぜでしょうか?あのお友達は入れ歯なのに何不自由なく噛めているのに私は痛くて噛めない、一向に落ち着かないということはありませんか?
まずは今使用している入れ歯は自分にあった入れ歯でしょうか?もしくはこれから入れ歯を作製する場合、自分に合う入れ歯とはどういうものでしょうか?それを考える上で一番重要になることは今の自分の状態を把握することです。
それは『診断』です。
なぜなら人それぞれお口の中の状態は全く違うからです。そのためその人にあった入れ歯というのも人それぞれ全く異なります。よってまずは適切な診断を行い、その診断に基づいた義歯(入れ歯)治療を行っていく必要があります。
そこで1回目のテーマは義歯(入れ歯)治療を行う上での診断についてお話ししたいと思います。
診断する内容を3つに分けてお話しします。
1.口腔内診断
まず一番に診断する内容は口の中の診断です。口の中の形態は人それぞれ全く違うため、それに合わせた入れ歯を作製することが非常に重要です。特に顎の骨との接触面積が小さく動きやすい下の入れ歯においては口の中の形態が入れ歯の離脱に大きく影響します。そのため下の入れ歯の離脱に影響する下記の4つの口腔内診査は必ず必要な診断となります。
1)顎堤形態
顎の骨の吸収が著しいと、咬んだ時に入れ歯が顎の骨の上で動きやすくなります。レントゲン上でオトガイ孔(下の顎の骨の中にある下歯槽神経という頬から顎の知覚を司る神経の出口のことです。)上部に残っている骨の量がオトガイ孔下部の骨の量と等倍の場合を良型、等倍以下を中等度、オトガイ孔近くまで骨が喪失しているものを悪型として診断を行います。
2) 舌下ヒダのスポンジ状組織
下の入れ歯が収まる前歯の内側には柔らかいスポンジ状の組織がある方とない方がいます。このスポンジ状組織があるとそのスポンジ状組織に入れ歯が埋もれることで、入れ歯がしっかり沈み込み収まります。ない場合はふかふかな絨毯がないのと同じでツルツルと滑りやすくなります。このスポンジ状組織がある場合は良好、少しだけある場合を中等度、ない場合は不良と診断します。
3)後顎舌骨筋窩部のスペース
次に下の入れ歯の奥の部分(舌の付け根の外側部分)にしっかり収まる深いスペースがあるかどうかを診断します。この部分には入れ歯の長さが少なくとも2mm以上延ばせないと入れ歯は外れやすくなります。この部位に(顎舌骨筋線を超えて)2mm以上延長できるスペースがある場合を良好、浅い場合を中型、スペースが全くない場合を不良と診断します。
4)レトロモラーパッド
レトロモラーパッドとは下の入れ歯の最後方部に位置する部位でこの部位は開閉口時に大きく変化するため最も下の入れ歯の維持をさせる上で難しいとされている部位です。このレトロモラーパッドに関しては、①硬さが硬いか柔らかいか②大きさが大きいか小さいか③傾斜が急か緩やかか④開閉口時の形態変化量が大きいか小さいかを細かく診査し総合的に評価した上でレトロモラーパッドが良好か中等度か不良かを診断していきます。
2機能診断
次に診断するのは機能的な診断です。
今の機能状態が健康な状態なのか、それとも機能が低下している状態なのかという事も勿論、診断しておく必要があります。機能が著しく低下している場合は入れ歯自体を取り扱う事ができるかという点も含めて診査します。
1)開口時における舌の位置
特に下の入れ歯において舌の位置は入れ歯の維持に大きく関係します。通常は舌というのは軽く前にある状態が正常な位置ですが、それが後方に後退しているケースがあります。舌が後方に位置していると下の入れ歯の隙間から空気が入り義歯が浮き上がりやすくなります。そのため、舌の位置を観察し、舌の後退が2cm以内の場合を良好、2~4cmを中型、4cm以上の後退がみられる場合を不良と診断します。
2)咬む位置
長年不安定な入れ歯を装着していたケースや、長年入れ歯が入っていなかったケースというのは下の顎の位置が不安定になっていたり、どこで咬んでいいのかわからなくなっていることがあります。そのため患者さんの習慣的な咬む位置を確認した後に、術者による下顎の正常な位置までの誘導を行い、それらに差があるかどうかを診断します。
3)顎関節
顎関節の診断は耳孔から約13mmの位置に指を置き、開閉口させます。下顎頭(口を開けた時に横に膨れる膨らみ部分)が左右同時に運動するケースを良好、どちらかが先に、あるいは遅れて外側に飛び出すように変位する場合を機能異常あり、クリック音や痛みがある場合は重度機能障害と診断します。
4)咬合力
患者さんに実際にテストフードを行い柔らかいもの、硬いものを食べてもらいどの程度まで食べることができて、咬んでいるときの力はどれ位あるのかを診断します。食べている時に咬む力が弱々しいのか、力強く咬めているのかは義歯を作製していく上で重要な評価となります。咬合力があるということは機能が低下していないということで義歯を使う上でも咬合力がある方がもちろん良いです。ところが咬む力が弱い=機能が低下している場合というのはまずはその機能を上げるリハビリ期間が必要となってきます。(こちらの機能低下している場合のリハビリの必要性などに関しては3回目にお話ししたいと思います。)
3旧義歯診断
OHIP評価(患者さんによる客観的評価)
最後に患者さんの満足度評価です。今使っている入れ歯を、入れ歯の形が悪い、人工歯がすり減っているなど歯科医師側が不適切な入れ歯と評価したとしても患者さんにとっては必ずしも悪い入れ歯と思っているとは限らない事もあります。例え歯が大きく飛び出た入れ歯であったとしてもそれを患者さんは長年使いそれこそが患者さんにとってはいい入れ歯になっている事もあります。最終的な入れ歯の評価は患者さんです。そのため治療前に今使っている入れ歯のどこは気に入っていてどこに困っているのかを分析をしておくことは非常に重要となります。
このようにまずは今の患者さんの状態が軽度なのか、中糖度なのか、重度なのかを診断することが治療を進めていく上でまず重要は事項となります。その診断なしには治療には入れません、なぜなら重度であるのに軽度の人に行う義歯治療を行っても良くはなりません。噛める義歯は作れません。つまり患者さんの診断結果によって行う治療方法は異なります。まずは診断でそれを見極めることがとても重要になるということが皆様に少しでも伝わって頂けたらと思います。次回は、”ではこれらの診断結果からどのような治療へと繋がっていくのか”を特に重度だったケースの場合に着目してお話ししたいと思います。