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歯医者さんで治療しても一向に良くならないしつこい歯痛とは?〜非定型歯痛について〜

Experience Based

  • 執筆者: 吉川達也
  • 2020/04/02
  • 記事区分:非会員/無料
  • 歯の痛み
  • 非定型歯痛
  • 非歯原性痛

記事の長さ:2426文字

歯の治療をしても、痛みの症状は一向によくならない、または、歯が痛いのに、歯医者さんにいっても『歯に問題はない』と言われる、そんな原因不明のしつこい歯痛というのが、実はあります。原因がわからず、必要のない治療を繰り返したり、歯医者さんを転々とする原因になります。いったい、これはどういうことなのでしょうか? 

典型的な、とある患者さん(40代女性)からのご相談を例に、詳しく解説していきます。

とある患者さん(40代女性)からのご相談メール


“1年前に左下の奥歯がしみるので近くの歯医者で虫歯と言われて削られてから、痛みが治りません。何回も治療しても変わらないのでネットで調べた歯科医で、マイクロスコープとラバーダムで丁寧に治療をしてもらったのに痛みが治まりません。

ジンジン、ジリジリして、仕事も家事も集中出来ません。なんとか食事はできるのですが、おいしくないし、硬いものは食べられません。温かいものでしみるような感じもします。治療してからもう一年近くになります。最近では、反対側の奥歯もジーンとすることがあります。友人の紹介で他の歯医者さんにも行ったけど、歯の方は何ともないと言われました。そこから紹介されて大学病院の口腔外科に行きましたけど、レントゲンとっても異常なしで、気にすぎと言われただけでした。

何かの方法で原因を調べることが出来るのですか?もう抜歯するしか方法はありませんか?あまりお薬は飲みたくないのですが治療できますか?夫が心配して相談してみたらというのでメールしました。よろしくお願いいたします。”


 

もう1年間も痛みが治らないということで、大変お悩みのようですね。実は、この患者さんの様に、いくら歯科治療を受けても良くならない歯の痛みがあるのです。

 

非定型歯痛とは

歯痛はお口の症状の中でも最もなじみ深い症状です。一般的には、「歯髄炎」や「歯周炎」 によるものがほとんどで、この患者さんの受けられた抜髄(歯の神経を取る処置)や、抜歯など通常の歯科治療で劇的に改善するとみなされています。

ですが、歯科治療後や抜歯後でもしつこく続く、原因不明の頑固な歯痛が存在します。典型的な歯痛とは異なるため、一般的には「非定型歯痛(atypical odontalgia)」と呼ばれています。痛みが後に顔面や顎の領域に及ぶ場合は、非定型顔面痛と呼ばれます。

非定型歯痛の症状

ジンジン、ズーンなど鈍い痛み(鈍痛)として訴えることもあれば、ズキズキ、刺すような、脈打つような、など患者さんによって訴えは様々です。通常持続性ですが、夕方や夜に悪化したり、時間帯によって出たり出なかったり変動性がある方が多いです。痛む部位はしばしば移動し、歯のない歯茎の部分や上下のあご、さらには顔面にまで拡大することもあります。場所は奥歯に出ることが多いです。

痛みで睡眠が障害されることはあまりありませんが、目が覚めると再び痛みを感じるようになります。食事や会話などに障害はないことが多いのですが、食べ物をかむと悪化するタイプの方もいます。どちらかというと1人でじっとしているときのほうが悪化します。

X線撮影など様々な検査をしても、はっきりとした原因が見つからないか、何らかの変化があったとしても軽微なことが多いです。ですが、念のため歯科用CTでの精査は検討すべきです。

わが国では、すでに何らかの歯科処置を受けている場合が多く、完全に歯そのものの原因がないと断言できる症例の方が少ないです。あごの骨の炎症などとの鑑別、複雑な歯の構造による根管治療自体の難しさ、処置後の根尖病巣(歯の根っこの先の膿)の存在などが、さらに鑑別を難しくさせます。

どのような人に多いのか

抜髄や根管治療など歯科治療を契機に発症することが多く、根管治療を受けた3%から6%の患者に発症するといわれています。中には、きっかけが無い方もいます。

比較的中年以降の女性に多く、20代 から70代まで幅広い年齢層で発症します。現在頭痛持ちの方や過去に頭痛があった方も多いです。

 

非定型歯痛の原因

この病気は、一種の「歯の神経痛」とも言われています。

歯の痛みの神経はお口から始まり脳まで至る長い連なりですが、その末梢から中枢に至るまでの神経系に何らかの機能の乱れが起こるためと考えられています。特に中枢、すなわち脳内での神経の働きに変容が起きていると考えられており、本来なら落ち着いているはずの痛みの信号が、脳の誤作動で出続けてしまっている様な状態と思われます。

痛みを感じる脳の部位、イラスト解説

非定型歯痛の治療について

現時点では、薬物療法が一般的で、なかでも抗うつ薬や抗てんかん薬による薬物療法が頻繁に行われています。特に三環系抗うつ薬が世界的にも最も定評があります。

お口の痛みの治療に抗うつ薬と聞くと、皆さんびっくりされると思いますが、実は頭痛の予防薬として処方されたり、慢性の腰痛など整形外科領域でも使われています。抗うつ効果を狙ったものではなく、疼痛の軽減作用を狙って使われるということなのです。また、近年では副作用が軽減された新しい世代の抗うつ薬も使われてきています。

お薬だけではなく、生活指導や補助的に簡易な心理療法を併用することも効果的です。痛みの消失を目標とせず、制限されていた日常生活を徐々に取り戻し、痛みが「苦にならない」生活を目標とする患者教育も大切です。

薬物療法によって、およそ7割近くの方がかなりの痛みの軽減が得られ、中には痛みが消失する方もいます。治りにくい方の中には、お薬自体に敏感に反応する方や、潜んでいる精神疾患が影響している方もいます。

終わりに

以上の説明からご理解頂けたら幸いですが、“念のために”と言われて根管治療をうけても、非定型歯痛には残念ながら効果がはっきりしません。最悪のケースでは抜歯をされても痛みに変化が無いことから、ようやく非定型歯痛ではないかと疑われる患者さんも少なくありません。適切な診断と治療を受けられれば基本的には良くなる病気ですので、長引く痛みでお悩みの場合は、まずは専門医の診察を受けられることをお勧めします。

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