この記事で学べること
歯の痛み、例えば冷たいもので歯が染みる、ズキズキ痛い、などは歯髄炎(歯の神経の炎症)の症状であることが多いです。そんな痛みを感じて歯科を受診したのに、虫歯がないから歯に異常はない、知覚過敏では?と言われることもあるかもしれません。
歯髄炎の原因というと、真っ先に虫歯を思い浮かべますが、実は虫歯菌以外にも歯の神経に炎症を起こす原因はあります。本記事では虫歯以外で起こる歯髄炎の原因について学びます。
歯の痛みには4つのタイプがあります
①歯の内部の神経の炎症:虫歯が原因で歯が痛くなる場合、それは歯の内部の神経(歯髄)に炎症が起こることで痛みが起こります。歯髄炎になると、冷たい飲み物で染みたり、熱いものでズキズキうずく痛みがあったり、何もしてなくても痛かったりと炎症の度合いによって様々な症状を示します。
②歯周病で歯グキが腫れている:歯の周りの歯茎や歯を支える骨に起こる病気で、歯槽膿漏とも言われます。
③歯の根っこの周りが炎症を起こしている(根尖性歯周炎)
④知覚過敏:初期の歯髄炎と似ている歯の痛みは知覚過敏です。冷たいものや、擦った刺激で一瞬歯がしみて、すぐに元に戻ります。
①の神経の炎症と、②の歯周病や、③根の周りの炎症は痛みの性質が違います。
どう違うかというと、ざっくりした説明になりますが、
神経の炎症の痛みは初期の場合、冷たいものでキーンと染みるような鋭い痛みが典型的で、一過性ですぐに治ります。④の知覚過敏ととても症状が似ています。炎症が深くなってくると、ずきずき疼く痛みに変わります。
歯周病や根の周りの炎症は、温度刺激などに誘発されるキーンという鋭い痛みは起こりません。鈍痛、疼く、腫れぼったい痛み、というような感じでしょうか。いずれも急性期には痛みの度合いは強くなります。
この記事では①の歯の神経の炎症が原因での歯の痛みについて解説していきます。
歯髄炎とは?
歯髄(歯の内部の神経)は外からの刺激に反応し、炎症を起こします。
炎症が起こると、神経の内部で痛みが発生する様々なメカニズムが発動します。これは外からの刺激を排除して、修復しようとする体が持つ自己防衛反応とも言えます。体の免疫が外からの刺激と闘っている証拠です。虫歯菌が歯の神経に対しての刺激としてメジャーなものになりますが、必ずしも虫歯だけが歯の神経に炎症を起こすとは限りません。
歯髄炎の原因は虫歯だけはない
『歯の構造』の記事で詳しく解説しましたが、エナメル質のが何らかの原因でなくなり象牙質が露出すると、象牙質と歯の神経は象牙細管を通して繋がっているため虫歯になってなくても象牙細管を通して、口の中の細菌の刺激や、温度の刺激、機械的な刺激、化学的な刺激等が神経に影響を及ぼすと言われています。
下のイラストは象牙細管を通して様々な刺激が神経に炎症をおこすことを表しているイラストです。
神経に炎症を起こす可能性があるヒビ(亀裂またはクラック)
例えば、歯の表面のヒビは(正式には歯の表面に入った亀裂、クラックとも言われますが)、明らかに歯が欠けていなくても、ヒビがエナメル質から象牙質に達した場合には、その先の歯髄まで、象牙細管を通して細菌性の刺激が神経に伝わる通路になります。
ですので、歯が欠けているように見えなくても、虫歯がなくても、クラックから刺激が神経に伝わり歯髄炎を起こす可能性があります。
浅いクラックは炎症を起こさない、経年的な歯の消耗と言える
歯の表面のヒビ、クラックが全て歯髄炎の原因かというとそうではありません。
エナメル質内で止まっている浅い場合は特に自覚症状もなく、深くならない限りはノーマルと考え、治療などは特に必要ありません。
歯は日々噛んで使っていますし、歯軋りや食いしばりなどでも歯には負荷がかかります。年齢を重ねていくほど、歯の表面の亀裂は誰にでも起こり得ますし、浅ければ病気ではありません。
経年的な歯の消耗と言えるでしょう。私の歯にもたくさんあります。
鏡でヒビを見つけても心配しないでください!
痛みがあるときは歯科医院でしっかり診察してもらってください。
虫歯治療の詰め物の隙間からの刺激
虫歯の治療で歯を削ると、エナメル質がなくなり、象牙質が露出します。
露出したままでは、神経へ様々な刺激が伝わるので、様々な修復材料で削った穴をぴっちり封鎖する必要があります。
修復材料には、金属、セメント、レジン、アマルガム等色々なものが使われています。
こういった材料が経年的に消耗し劣化する場合、または耐久性の問題で縁の部分が欠けたり、または歯が欠けたりするとことがあります。
そうすると、詰め物が緩んだり、隙間ができたりします。
この隙間から象牙質が露出することになり、外からの刺激が神経に伝わる通路ができます。
これもまた歯髄炎の原因になりますし、虫歯の再発の原因にもなります。
歯を削ることによる神経へのダメージ
歯を削る行為自体も、歯髄に対してダメージになると考えられています。
特に削るときに生じる摩擦熱は神経の温度を上昇させ、悪影響を与えることが動物実験でも報告されています。
そのためにお水や風で冷やしながら、圧をかけず優しく削る方法が採用されています。
ただ、神経に近い深い位置を削る場合は象牙細管の直径も大きく、刺激がより神経に伝わりやすいです。
削ることのダメージ以外にも修復物(詰め物の材料や接着剤など)からの刺激も神経に伝わりやすくなります。
深い虫歯、歯をたくさん削ることはそれなりのダメージを歯髄に与え歯髄炎の原因になりえますので注意が必要です。
終わりに
虫歯も含め、様々な刺激によって歯髄炎は起こります。
初期では無症状なことも多いですが、刺激が持続し度合いが強くなるに連れて症状が顕著になってきます。
原因が取り除かれると、刺激が神経に伝わらなくなるので、正常の状態に戻る可能性が高いのですが、炎症がある一定のレベルを超えると
原因を取り除いても歯髄が健康に戻れず、弱ってしまい最終的には死んでしまいます。
ある程度進行した虫歯や、欠けた詰め物を放置しない、等、神経に負担をかける刺激がある場合は早めに取り除いてあげることが重要です。
参考文献
1) Pashley, D.H. and Tay, F.R.(2012). Pulpodentin complex. In Seltzer and Bender’s Dental Pulp: 2nd Ed. Quintessence Publishing Co, Inc.
2) Pashley, D.H. and Tay, F.R.(2012). Pain Mechanisms of the Pulpodentin Complex. In Seltzer and Bender’s Dental Pulp: 2nd Ed. Quintessence Publishing Co, Inc.
3) Tjäderhane, L. and Paju, S. (2019) Dentin‐Pulp and Periodontal Anatomy and Physiology. In Essential Endodontology : Prevention and Treatment of Apical Periodontitis:3rd Ed. Wiley-Blackwell.