この記事で学べること
そもそも接着とは?
「接着」と「合着」:
「接着」とは、二つの個体(被着体)表面が接着剤を介して互いに接合する現象をいう。接着剤と被着体表面の間で化学的に、または物理的な力、あるいはその両者により一体化した状態となることである。歯科領域では、化学的に接合される現象が多少なりでも含まれる場合を接着と表現することが一般的な考え方である。それに対して、物理的な接合(機械的嵌合力や摩擦力)のみで二つの被着体が一体化する場合を「合着」と呼んでいる。; 日本接着歯学会編 接着歯学 第2版より
多様な被着体
現代の歯科治療では、接着するべき対象が多様化しています。歯質(エナメル質、象牙質)、金属、レジン、ファイバーポスト、ガラスセラミックス、アルミナ、ジルコニア、チタン等、さらにこれらの材料が一つの歯牙(支台歯)に混在することも少なくありません。いま現在流通しているようなユニバーサルボンディングがない時代はこれらにそれぞれのプライマーやボンディングを適用していました。実際に私が20年前にオールセラミックスの接着に使用していたレジンセメントは接着までに6ステップ位あり、相当にテクニックセンシティブでした。それを思えば、今現在主流になっているユニバーサルタイプの接着性レジンセメントは臨床にかなりのインパクトを与えたと言えるでしょう。私は20年近く同じメーカーのレジンセメントを使用していますが、最初は2ペーストを練板で練り合わせるタイプからオートミックスになり、セルフアドヒーシブからボンディングを併用したアドヒーシブのタイプにと変遷しています。これは気泡のない均一なセメントを得ることのみならず、様々な被着体に対応するために他なりません。
CAD/CAMクラウン(インレー)に用いられる材料特性と支台歯形成
現在、CAD/CAMクラウン(インレー)に用いられるハイブリッドレジン材料は、支台歯と強固に一体化して初めて歯科材料として適切な剛性が発揮されるため、接着性レジンセメントにおける接着が必須であり、合着や仮着は認められていません。ハイブリッドレジンブロックに関しては、その組成や特徴は様々あるものの、工場で精製されているためフィラーが非常に高い割合で含有されており、フィラー間を埋めるマトリクスレジンは重合率が高く接着には不利であることからも、フィラーといかにして接着させるかが鍵となります。
また、CAD/CAMクラウン(インレー)の支台歯形成は従来の金属による修復物に比べ形成厚みを多く必要とするため、支台歯の削除量が増加することで支台歯形態での維持力増加が得られにくいことも接着性レジンセメントによる強固な接着が必要な理由でもあります。
新しく適用になったCAD/CAMインレー
2022年4月よりCAD/CAMインレーが保険収載になりました。
[算定要件]
(1) CAD/CAMインレーとは、CAD/CAM冠用材料との互換性が制限されない歯科用CAD/CAM装置を用いて、作業模型で間接法により製作された歯冠修復物をいい、隣接歯との接触面を含む窩洞(複雑なもの)に限り、認められる。
(2) CAD/CAMインレーは以下のいずれかに該当する場合に算定する。
イ 小臼歯に使用する場合
ロ 上下顎両側の第二大臼歯が全て残存し、左右の咬合支持がある患者に対し、過度な咬合圧が加わらない場合等において第一
大臼歯に使用する場合
ハ 歯科用金属を原因とする金属アレルギーを有する患者において、大臼歯に使用する場合(医科の保険医療機関又は医科歯科併設の医療機関の医師との連携の上で、診療情報提供(診療情報提供料の様式に準ずるもの)に基づく場合に限る。) [施設基準]
CAD/CAM冠及びCAD/CAMインレー
(1)十分な体制が整備されていること。
(2)十分な機器及び設備を有していること又は十分な機器及び設備を有している歯科技工所との連携が確保されていること。
基本的にはCAD/CAMクラウンと同様ですが、今までのメタルインレーとの違いはその形成量です。CAD/CAMによる製作においては、ミリングマシンのバーによる機械加工(切削)によってブロックを削合していくので、それに合った形成が必要なため、解放角は90度~120度。また形成量(大臼歯)はイスムスで幅、深さともに1.5mmとメタルインレーに比べると多くなります。
実際の臨床における接着の流れ 13ステップ
今回はCAD/CAM クラウン(インレー)の接着について私が行なっている方法を紹介します。装着日に来院されたら
1、咬合接触点の確認と仮歯(仮封材)の撤去
2、支台歯の清掃
仮着剤は基本的に接着阻害を起こさないものを使用し、ブラシを用いて清掃します。
3、クラウン(インレー)の試適(コンタクト調整)
この時点ではコンタクトとマージンの確認のみを行い、咬合調整はしません。
4、クラウン(インレー)内面のサンドブラスト
補綴物内面は、粒径25~50μmのアルミナを0.2~0.3MPaでサンドブラスト処理を行います。理由は、試適後に汚染(血液、歯肉溝滲出液、唾液および加工時の切削粉など)されている補綴物内面の完全な機械的清掃と、表面に微細な凹凸構造を作ることで機械的嵌合力やフィラーの接着面積を増加させる効果を期待するためです。
(こちらの器具を使用してサンドブラスト処理を行う)
5、形成窩の清掃
唾液により支台歯が汚染されているため、接着直前に必ずもう一度清掃を行います。
6、クラウン(インレー)内面と形成窩に接着システムに従って最適なプライマーなどで処理
ここで多くの処理剤はエアーで飛ばすことになると思いますが、その時に一番セメントアウトが厄介な臨在歯コンタクト部分を指で押さえてエアーをかけると装着した後のセメントアウトが楽に行えます(写真参照)
7、接着性レジンセメントの塗布
私は、一旦セメントを練板の上に出した後、小筆を使って補綴物内面に適量を塗っています(この方が隅々まで確実に自分の入れたい量を塗布できます。)
8、クラウン(インレー)のシーティング
9、余剰セメントの除去(綿球にて)
静かにシーティングした後、インレーであれば綿球や筆を用いて咬合面から溢出したセメントを拭き取ります。インレーの場合は咬合面にセメントが溢出してくるので、そのまま硬化させると咬合面溝や辺縁隆線を超えたコンタクト上で硬化したレジンセメントを除去するのが厄介だからです。クラウンの場合はマージン全周から溢出しているか?を確認し、そのまま次のステップに移ります。
10、1秒程度の光照射(タックキュア)
タックキュアの後、可能な限りセメントを除去します。隣接面はフロスを通して隣接面や歯肉縁下のセメントもこの時に除去出来ているか確認します。
11、本照射
接着システムに則って光照射を行います。
12、咬合調整
最初に確認した咬合に変化がないかどうか確認を行います。
13、研磨
通方に従って研磨を行います。マイクロをお持ちの先生であれば、セメントが残っていないか等の確認も確実かと思います。
シェードの選択基準
特に接着性レジンセメントは審美的な修復に用いられる事が多いためセメント自体に何種類かのシェードが用意されています。トライインペーストを使用して丁寧に確認しても良いと思いますが、私は臨床ではラボテクニシャンには基本的にトランスルーセント(透明)でシェードが合うように製作してもらっています。支台歯のディスカラーレーションが強い、もしくは支台歯が金属などの場合はオペークを使用しますが、このような共通認識で仕事を進めた方がスムーズかと思います。
セメントのレントゲン造影性について
接着レジンセメントの中にはレントゲンに造影性のあるものがあります。これは、臨床的に最もセメントアウトが確認しずらい隣接面直下もしくは歯肉縁下のセメントの取り残しをレントゲン撮影によって確認できるという利点があります。
まとめ
さて、今回は2022年4月より保険収載されたCAD/CAMインレーの接着のお話を中心に主に補綴臨床における接着を再考してみました。私達、歯科医師は毎日の接着操作を行なっていますが、昨今の歯科治療では接着する被着体の種類も多種多様になっています。しかし、接着の基本原理を学び、操作においてもメーカー推奨のステップをきちんと踏んでいけば、臨床上困るトラブルはほぼ避けられるはずです。今後も新しいマテリアルや接着方式が開発されると思いますが、まずは基本に立ち帰ってみることが大切ですね。